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滅菌関連情報 PLASMA LINK | ASP Japan合同会社 〜2005年 Vol.10

AORN Report AORN世界手術室看護師会議2005 REPORT

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2005年9月25日から29日の間、第13回AORN(The Association of periOperative Registered Nurses:世界手術室看護師会議)が、スペインのバルセロナで開催されました。今回は43ヵ国から1,100名という多数の参加者を迎え、大変な盛況を見せました。

今回の大会でも世界各国の参加者たちが、自国の民族衣装や工夫を凝らした仮装で、交歓を深める「インターナショナル フェローシップ ナイト」が開かれています。また、会場では23の企業が展示ブースを設置し、参加者たちの高い関心を集めていました。

今回の会議の講演から、手術室の感染に関連して世界的権威である4名の専門家の発表内容を紹介します。

AORN世界手術室看護師会議2005 REPORT

英国における滅菌、消毒および感染対策の問題

英国の現状について

英国の病院では通常、医療器具の洗浄と滅菌は外部業者に委託されています。アウトソーシング化は約15年前に始まりましたが、1998年まで法律の整備はほとんどされていませんでした。

このたび行われた43の公立の急性期病院と、10の私立病院(プライマリケア施設)の滅菌設備と標準化に関する調査によると、その現状はあまり良いものではありませんでした。まず、急性期病棟の67%が、基準を満たしておらず、建物や設備投資も不足していました。また、スタッフへの専門的な教育も不十分であることが分かりました。

International Federation of Perioperative Nurses会長 Kate Woodheadさん

International Federation of Perioperative Nurses会長
Kate Woodheadさん

再生処理作業を、院内の手術室、外来などで処理している施設も多くありましたが、正しい手順を訓練されていたのは、実に手術室スタッフの58%、プライマリケアスタッフの32%のみでした。そればかりか、機器管理担当者たちは、院内にあるハイスピードオートクレーブの設置台数さえ把握していない状況で、機器の保守管理も不十分でした。また、機器購入時に、洗浄や滅菌方法の確認を行わずに購入手続きが進められることが多くありました。このような事態の改善策を見直すため、2000年10〜11月、国民保険サービス制度に関した包括的な調査が実施されました。

CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)の発生とその感染対策

英国においての感染対策問題をさらに悪化させたのが、1996年に発見された、プリオン蛋白による変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(Variant Creutzfeldt-Jakob Disease:CJD)でした。CJDは、接触、飛沫または空気では伝播しませんが、感染性物質が直接または移植などにより脳内、末梢血管内に入ることで、ヒトからヒトに伝播する医原性感染が問題になっています。これまでに6人が脳外科的手技により感染しています。

プリオン蛋白は通常の消毒や滅菌では不活化されないことが分かっており、CJD感染患者、感染が疑わしい患者のハイリスク組織で使用された器具は全て再使用せず処分することが望ましいとされています。CJDの発見は、英国においての感染対策の現状を早急に改革するきっかけとなりました。多くの機器は、その構造上の問題から再生することは難しく、機器自体のプリオン蛋白質除去に関する検査は行われていませんでした。この状況を改善するために、英国政府は基金を設立し、急性期病院の洗浄、滅菌設備を改善し、医療器具を介しての感染リスクを軽減する対策を講じました。

英国政府による対策

英国政府は、総力を挙げて感染対策を実施しました。医療器具の取り扱いに携わる全てのスタッフへの包括的な教育を実施し、現場での洗浄作業はできるだけ減らして外注化を進め、一定の基準に見合わない外注業者を廃しました。院内にあるハイスピードオートクレーブは排除して外注化を進め、組織的に改革が進むよう各病院で実行委員長が選出されました。医療スタッフへの教育は、eラーニングプログラムを採りいれました。1レッスン45〜90分をそれぞれが受講し、試験を課すことで学習効果を向上させました。

Woodheadさんは、「これらの取り組みは、2007年までに英国内すべての施設が基準を満たすことを目標としています」と展望を語りました。

高水準消毒薬の選択と使用

消毒薬の種類と選択

「正しい選択と安全な使用法に関連して、高水準消毒薬の問題や誤りがよく見られます」と、Boldingさんはいいます。完全な消毒薬はなく、それぞれに長所、短所、使用上の注意点があります。

高水準消毒薬は、大量の細菌芽胞を除くほとんどの微生物を殺滅し、化学的滅菌剤とも呼ばれています。接触時間を長くすれば芽胞も殺滅できます。中水準消毒薬は、マイコバクテリウム、大多数のウイルス、細菌を死滅させ、結核菌を死滅させる殺菌薬も含まれます。低水準消毒薬は、一部のウイルスおよび細菌を死滅させ、病院消毒薬として登録される殺菌薬などが含まれます。一方、滅菌とは芽胞を含む全ての微生物を殺滅します。

再使用が可能な器具は、消毒を必要とするものもあれば、滅菌を必要とするものもあります。医療器具に関するスポルディングの分類では下記のようになっています。

  1. クリティカル器具(無菌組織または血管に挿入するもの)は滅菌
  2. セミクリティカル器具(粘膜または損傷皮膚に接触するもの)は高水準消毒
  3. ノンクリティカル器具(正常な皮膚に接触するが、粘膜には接触しないもの)は低水準消毒

ジョンソン・エンド・ジョンソン( Advanced Sterilization Products)、クリニカルエデュケーションコンサルタント Barbara Boldingさん

ジョンソン・エンド・ジョンソン( Advanced Sterilization Products)、クリニカルエデュケーションコンサルタント
Barbara Boldingさん

高水準消毒薬を選択する際には、効能・効果、安全性、使用上の特性などを基準に選択します。有効性の判定基準は、抗菌スペクトル、作用時間、最小有効濃度、薬事承認の有無、第3者による試験の結果など、が含まれます。安全性の判定基準には、患者および医療スタッフの安全の保証(適切な再処理法の選択、接触および吸入の危険の回避、流出したときの適切な処置方法など)、医療器材との適合性、廃棄条件が、含まれます。使用上の特性では、使い易さ、臭い、着色や退色の性質、安定性、1回使用あたりのコスト、が基準になります。

安全な使用法

消毒薬を安全に使用するためには、まず、最も危険性の少ない製剤を選択します。次に、グルタルアルデヒド蒸気への曝露や再処理時の消毒薬への接触を最小限にすること、適切な換気をすること、蓋付き容器を使用することなどの環境管理が必要です。また、消毒薬との接触を防ぐための手袋や蒸気の吸入を避けるためにマスクを着用することも重要です。

器具を再処理する際には、まず器具に付着している汚れを洗浄剤を用いて洗い流すことが大切です。消毒薬の濃度が最小有効濃度を保っていることを必ず確認し、必要な作用時間を短縮してはなりません。また、消毒薬が残留しないよう、適切な水質・水量の水を用いてよくすすぎます。

Boldingさんは、「どの消毒薬を選ぶ場合でも、看護師は、医療スタッフや患者の安全性に影響を及ぼす使用上の注意点について知っておくことが大切です」と強調しました。

タイの手術室における手術時の手洗い、手術衣と手袋の使用状況、手術器具のカウント法

周術期医療に関する看護師へのアンケート

Asdornwisedさんは、Operating Room Nurses Society of Thailandに参加した看護師1,000人のアンケート調査の結果を報告しました。調査の目的は、タイの手術室における手術時の手洗い基準、手術衣と手袋の選択および使用状況、手術器具のカウント法などを明確にすることです。Asdornwisedさんは、「専門的な技術が実際に効果的に用いられているか、そうでなければその原因を探るべきだ」と述べています。  調査に用いた質問票は、AORNガイドラインと、タイ周術期看護師ガイドラインのレビューなどに基づき作成しました。  その結果、全体的にガイドラインの遵守率は概ね良かったのですが、下記の点で課題があることがわかりました。

  • 使い捨て製品が適切に使えるとは限らない
  • 手術時の手洗いの頻度や時間、水質や量は適切だが、一日の後半には手洗い手順が短縮されることがある。
  • 保護眼鏡などの保護具や使い捨てブラシなどが、推奨されているとおりに使用されていない。
  • 使い捨て容器が廃棄されないこともある

マヒドン大学看護学部教授(タイ看護ジャーナル編集長) Usavadee Praditkul Asdornwised さん

マヒドン大学看護学部教授(タイ看護ジャーナル編集長)
Usavadee Praditkul Asdornwised さん

手術衣や手袋の着用などについて

手術衣と手袋の着用に関しても、遵守率が高かったのですが、使い捨ての手術衣が支給されている病院は多くなく、その場合でも再使用されていることがありました。手袋の着用技術も適切でしたが、ラテックスフリーの手袋が常備されていることはまれでした。滅菌ガーゼ、スポンジ、縫針などの手術器具のカウント法は課題がありました。カウント用紙が使用される場合もありましたが、手術器具と包装パッケージのカウントを2名で行い、カウント順が同じでなかったり、声に出してカウントを確認し合ってないこともありました。カウント数に食い違いが生じた際の手順は、X線撮影要求を除いてほぼ適切でした。

以上のことから、Asdornwisedさんは「タイにおける周術期の看護師の医療レベルは、ガイドライン遵守よりも従来行ってきた方法などに基づいている」と結論づけています。

航空機産業から学んだ手術室チェックリスト

航空機の安全性とチェックリスト

80年以上におよび航空会社が、離陸前、飛行中、着陸時の「危険項目」を把握し、安全性を改善するため、チェックリストをどのように用いているかについての解説から、Hudsonさんの講演は始まりました。

Hudsonさんが所属する医療センターの心臓外科医長(彼自身パイロットでもある)は、「操縦室からの教訓」という5,000人のパイロット訓練の実績があるFlight Safety International社が行っている研修コースに、Hudsonさんらに参加することを勧めたそうです。このコースは、人間が最良の状態にあるときだけでなく、心理的、身体的状態があまり良くない状況にあっても、ヒューマンエラーを最小限に抑える方法を学ぶものです。航空機内では確認が必要な機器や作業がますます増加する一方で、乗務員はそれらを全て暗記することはできないため、チェックリストが必需品になっています。

「操縦室からの教訓」に参加後、Hudsonさんは、コースの内容を手術室用に活かせるよう、チェックリストを作成しました。このチェックリストはその後も定期的に改訂を行い、活用されています。

ロチェスター大学医療センター、ストロング・メモリアル病院 Kevin Hudson さん

ロチェスター大学医療センター、ストロング・メモリアル病院
Kevin Hudson さん

センチネルイベントの防止

事故が起きてしまうと、乗客も乗務員自身も死に至る確率が高いことから、航空会社では80年にわたり、離陸前、飛行中、着陸時の「危険項目」を洗い出し、チェックリストが開発されて以来、さらに適切な使用を追及してきました。このようなチェック方法を医療現場が採用していたと仮定すると、米国における年間98,000件もの医療ミスによる死亡事故は起きてはいなかったと推測されます。米国では年間290億ドルもが医療ミスに関連するコストとされています。また、信頼の喪失はさらに大きな問題かも知れません。たった1回の医療ミスでも、直接の当事者だけでなく、施設内の医療スタッフや関係者までも信頼をなくします。施設全体がリスクにさらされる可能性のある事故を「センチネルイベント」と呼びます。

1996年、医療施設認可合同委員会(JCAHO)では、センチネルイベントに関する下記のような方針を発表しました。

  • 医療の質を高めること
  • センチネルイベントの潜在的原因やリスクを軽減する方法に注意を集中させること
  • センチネルイベント、その原因および予防に関する知識を増やすこと
  • 認定プロセスにおいて社会的信頼を維持すること

2004年に報告された、センチネルイベント2,840件のうち、65%はコミュニケーションミスが原因であり、そのうち74%は死亡事故です。一般に、手術室スタッフ間におけるコミュニケーションの問題は、手術室特有の個人主義体制に原因があるようです。手術室での成功や失敗は、個人のコミュニケーションスタイルや手術室内での職階級など、恣意的・個人主義的要因が原因になっています。

JCAHOにとって、センチネルイベントに対する解決策はユニバーサルプロトコルを実践するという明確なものでした。JCAHOのプロトコルでは下記のように述べられています。

  1. 術前の確認プロセス
  2. 手術部位のマーキング
  3. 手術開始直前のタイムアウト(作戦会議)が必要

術前の確認プロセスは、チェックリストの使用が推奨されています(義務付けてはいない)。本プロセスは手術計画時から開始され、手術開始と同時に終了します。患者は術前の全ての医療行為を通じて正確に管理されます。手術部位のマーキングは、部位を誤って手術が行われないための措置です。JCAHOでは、手術部位の特定とマーキングには外科医と患者の双方が関わることを推奨しています。

手術開始前のタイムアウト(作戦会議)は、手術を施行する場所で行い、チーム全体が積極的に参加すべきだとしています。手術開始前のタイムアウト中に得た情報は記録し、食い違いがあれば解決しておく必要があります。患者の名前、手術部位、術式、患者の体位、インプラントや特殊装置の有無、X線写真などは、しっかりと2名で確認することが大切です。また、立ち会うスタッフ、患者の体重、投与する抗生物質、深部静脈血栓症の予防処置、βブロッカーの使用、ABO式血液型不適合性なども、適宜確認します。

チェックリストの有用性

チェックリストには、JCAHOのプロトコルに勝る長所もあります。チェックは理想的には、少なくとも2名が一緒に作業し、項目ごとに2回、ダブルチェックを行うべきです。片方がチェックリストの項目を読み上げるだけではいけません。Hudsonさんらによって開発されたストロング・メモリアル病院のチェックリストには、患者確認の項目、アレルギーの有無、署名した同意書、患者の病歴と身体所見の結果、手術開始前のタイムアウトで推奨されるすべての項目、が含まれています。そして、2名で各項目を確認し、手術に参加するスタッフ全員が文書に署名します。

Hudsonさんは「チェックリストにも欠点がないわけではありません。例えばチェックリストを用いることに抵抗感を示すスタッフもおり、積極的に活用してもらうための対策も必要です」としながらも、「チェックリストを使用することで、コミュニケーションが改善し、ミスが回避され、安全に対する意識を高めることができます。さらに、チームワークが強まり、標準化が図れます」と結びました。