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滅菌関連情報 PLASMA LINK | ASP Japan合同会社 〜2005年 Vol.10

User Interview 災害時における手術室の危機管理と緊急時の滅菌方法

神戸大学医学部附属病院

この記事のテーマ
  • ステラッド®導入効果

各地で予測もしなかった災害が発生している昨今、緊急時にどのような医療体制を整えるかは大きな課題となっています。1995年1月17日、午前5時46分。マグニチュード7.2という最大規模の直下型大地震が阪神・淡路地域を襲い、死者6,000人以上、負傷者4 万人以上という未曽有の災害を引き起こしました。神戸市の中心に位置する神戸大学医学部附属病院は、病院自体が被災しながらも、入院患者の安全確保と次々に押し寄せる被災傷病者の治療に当たりました。そこで、当時の様子を知る手術部看護師長の岡本規子さんに、災害時の手術室危機管理についてお話をうかがいました。

神戸大学医学部附属病院

病院自体が被災しているなか、救急部は野戦病院の様相

11年前の1月17日、岡本規子さんは病院近くの自宅マンションで被災しました。部屋の中はものが散乱して足の踏み場もない状態でしたが、幸い怪我はなかったので、とるものもとりあえず自転車で病院に向かったそうです。

病院に到着したのは午前7時頃。手術部に行く前に救急部を覗くと、血で汚れた床にうずくまる人、痛みを訴え長椅子に横たわる人、畳やふすまの上に布団を載せて運ばれてくる人などで溢れかえり、さながら野戦病院のようだったといいます。そのなかで、深夜勤務の看護師2名と構内の寄宿舎から駆けつけた看護師たちが救護に当たっていました。

搬送された被災者の大半は、建物の倒壊や家屋の転倒により圧迫を受けた“クラッシュ症候群”で、腹腔内出血や骨盤あるいは四肢骨折を起こした患者も大勢いるようでしたが、それを診断する検査もままなりませんでした。

神戸大学医学部附属病院/手術部看護師長 岡本 規子 さん

神戸大学医学部附属病院/手術部看護師長
岡本 規子 さん

病棟は外壁が損壊し、室内の棚とロッカーが倒れてカルテや書類が散乱していました。手術部では手術台コラムや壁面パネルが破損。ライフラインについては、地震発生直後に停電したもののすぐに自家発電装置が稼働し、5時間後に復旧。水道は震災当日は供給されていましたが、その後断水し、トイレが使用できなくなりました。ガスもすぐに停止し、復旧には1か月もかかったそうです。

まずは院内の医療従事者の連携
当直看護師は状況確認、緊急手術の対応、師長は応援体制づくり

手術室の当直看護師2名はまず、集中治療部の患者と看護師に被害がないか確認し、次に手術室の被災状況をチェック。麻酔科医とともにモニター、麻酔器、中央配管の吸引、ガスなどを調べた結果、非常用ガスボンベを麻酔器に付ければ緊急手術に対応できると判断しました。当日手術予定が入っていた診療科病棟には、予定患者を病棟待機させるよう連絡しました。

まもなく看護師長が到着。当直看護師からの報告を受け、すぐに看護師の応援体制づくりに入りました。師長は手術室スタッフを緊急手術要員と集中治療室・救急外来要員に振り分け、看護部と連絡を取って救急外来以外の外来にも看護師を配置しました。

当時、手術部内の材料室業務を担当していた岡本さんは、手術部に残り、緊急手術の連絡と物品供給窓口の担当に割り当てられました。注射器、輸液セット、挿管チューブ、ガーゼなどがどんどん出て行き、手術部の院内在庫が減少していきましたが、交通経路は寸断され、業者も被災しているため、物品の補充は思うようにできませんでした。

滅菌業務の再開には

膀胱破裂、眼球破裂、急性硬膜下出血、腸管壊死などを起こした重症患者に対しては緊急手術が行われましたが、水とガスが使えない状況ではEOG滅菌器もオートクレーブも使用できませんでした。唯一使えたのが小型ガス滅菌器ですが、それでは滅菌業務に限界があり、手術部の機能が麻痺してしまいます。

当日手術部にあった滅菌済み器材セットと単品器材パックの一覧表を作成して無駄のないセット選択を行うとともに、使用済み器材は優先順位を決めて滅菌することにしましたが、それでも間に合わず、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社からの申し出で低温プラズマ滅菌装置“ステラッド®” を借り受けることになりました。ステラッド®は電気の供給さえあれば稼動でき、しかも短時間で器材を滅菌できます。

手術部に置かれたステラッド®200

手術部に置かれたステラッド®200

「最初は一度にたくさん入れすぎて停止するなどの失敗もありましたが、2〜3日経つと操作にも慣れてきました。緊急時に対応できるよい滅菌方法だということで、震災の騒ぎが治まった後に手術部で1台購入しました」と岡本さん。

当時は断水により手洗い装置も使用できず、給水車の水を使ってイソジンソープ等で洗浄し、最後にアルコール擦拭法を行いました。また、震災直後から2週間は24時間の看護体制となり、岡本さんも病院に泊まり込んでソファーで仮眠をとる程度で、連日勤務を続けたといいます。他の病院からも、多くのスタッフが応援に駆けつけました。そうして、ほぼ通常業務に復旧したのは、震災から1か月以上過ぎてからでした。

災害対策マニュアルの重要性

こうした震災の経験を通して、神戸大学医学部附属病院では平成9年(1997年)1月に「災害対策マニュアル」を作成し、定期的に防災訓練を行ってマニュアルどおりの行動ができたかどうか評価し、それに基づいてマニュアル自体も随時改変していくという作業を続けてきました。災害の種類や被災状況によって、①病院が大きく被災した場合、②病院の被災はわずかで拠点病院として機能すべき場合、③他所での被災に対し中核的に傷病者を受け入れる場合、④後方支援施設として他施設と連携を図る場合など、さまざまなケースが想定されます。「これらのうちどの状況を選定し、どこに目標をおくのかを明確にした防災訓練を、定期的にパターンを変えながら繰り返し行うことが大切です」と岡本さんはいいます。

災害対策マニュアル

災害対策マニュアル

病院自体も被災した場合は、ハード面(建物、設備など)とソフト面(マンパワー、情報伝達、ライフライン、医薬品・医療材料、搬送手段など)の両機能が大幅に低下するにもかかわらず、医療の需要が急増(傷病者、喪失・危険体験者など)するため大きな不均衡が生じます。この不均衡をいかに克服するかが課題であり、その事態を想定したハード・ソフト両面の整備が必須だといいます。

同院では緊急時の連絡網を整備するとともに、災害対策本部とさまざまな作業班を設置、指揮系統を明確にした救援体制を確立し、備蓄を含めた必要な物資・人員の確保と搬送が行えるようにするなど、それらを災害対策マニュアルにまとめました。

部署ごとの行動マニュアルも作成

病院全体の災害対策マニュアルに基づき、現在は部署ごとに具体的な行動マニュアルを作成しています。

手術部のアクションカードはすでに作成され、①手術部部長、副部長、助手、看護師長が状況に応じて現場責任者を決定する、②現場責任者は災害状況(発生時刻、災害の種類、災害場所)を確認する、③緊急手術受け入れ態勢を整える(スタッフと使用可能な手術室の確保など)、④緊急手術依頼時の対応(患者チェックリストに基づいた確認、手術器械・材料の確保、手術票・麻酔申し込み票などのオーダー入力ができないときの手書き伝票による対応、患者搬入時間の決定)など、具体的な手順と方法が記されています。

また、無停電装置であるCVCF回路は赤色のコンセントで、麻酔器をはじめ生体情報モニターなど患者の生命維持装置以外は接続しないように決め、さらに器機によって使用優先順位を考え、自家発電回路は茶色、一般電源は白色で、使用電気容量を分散させた器機の配線の周知と徹底も図りました。

「手術部では、被災時の手術患者と職員の安全確保、重症傷病者の緊急手術受け入れ手順など、病院内における各部門との連携のあり方を含めて、普段から設備点検や動線の設定などをきちんと行っておくことが肝要です。手術部は毎日が緊急要請ですから、日常業務の中でライフラインの確保を想定した行動マニュアルが実践されていれば、そのまま災害時にも生きてきます」と岡本さんは話してくださいました。

施設の紹介

神戸大学医学部附属病院

兵庫県神戸市中央区楠町7-5-2
病床数:920床
手術室数:13室
年間手術件数:5,462件(2004年度)
ステラッド®200 1台
(2002年 ステラッド®100Sをステラッド®200に買い換え)

神戸大学医学部附属病院