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滅菌関連情報 PLASMA LINK | ASP Japan合同会社 〜2010年5月 Vol.18

Special Interview
一人ひとりの意識改革により滅菌の質保証が向上する

第85回 日本医療機器学会大会 大会長
社会福祉法人 恩賜財団 済生会 福岡県済生会福岡総合病院
中央手術部 部長 松田 和久 先生

この記事のテーマ
  • ガイドライン
  • 滅菌保証
[画像] 社会福祉法人 恩賜財団 済生会 福岡県済生会福岡総合病院 中央手術部 部長 松田 和久先生

日本医療機器学会(旧 医科器械学会)による「医療現場における滅菌保証のガイドライン2005」が刊行されて5年目を迎えました。2010年には、新たなガイドラインも検討されています。医療の現場により高いレベルの滅菌保証が求められることになりそうな今年、「優しさと安全性を有する医療機器-すべては患者さんのために!-」をテーマに開催される第85回日本医療機器学会大会で、大会長を務める済生会福岡総合病院の松田和久先生に、「優しさと安全性を有する」滅菌とはどんなもので、それはどう保証されるべきなのかについて伺いました。

効果が目に見えにくいからこそ滅菌には『保証』の概念が必要

器材の滅菌は、とても重要な技術であり業務であることは、いまさら言うまでもありません。私たちの日々の業務は、滅菌があってこそ成り立つものです。

しかし、滅菌を取り巻く環境は、決して満足できる状況ではないとも言えます。病院内に中央材料部が設置され、滅菌技士・師がいるところでは、最新の情報を仕入れ、勉強し、技術的なことも一定のレベルに達していると思いますが、そうではない施設では、どのような状況なのか…。また、資格を持たない看護助手などの滅菌作業スタッフを指導する立場である医師や看護師に対する統一的な指標・検証がされていないのも事実です。

松田 和久先生の写真

以前、滅菌器の中に器材を入れて、電源が入っていないのにスイッチを入れただけで、出てきた器材をそのまま払い出して大騒動になったと耳にしたことがあります。当時、「私は滅菌することが仕事ではない。器械に器材を入れることが仕事。滅菌が完了するまでの工程はわからない」と言う人がいるとも聞きました。

これに対しては昨今では、学会認定資格として滅菌技士・師ができ、有資格者がきちんと滅菌業務を行っていると明記する施設も増えてきています。

このように非常に重要なことであるにも関わらず、医学教育の中で、理論と臨床における実践がきちんと体系立てて教えられていないものの一つが滅菌(業務)だと言えます。

滅菌とは病原体・非病原体を問わず、すべての微生物を死滅、または除去することと定義されています。目視で確認できないからこそ、滅菌にはデータに基づいた保証が必要なのです。

2009年に改訂され、Ver.6.0となった病院機能評価においては、滅菌保証が特に重要視されています。現在、改訂中の「医療現場における滅菌保証のガイドライン」の2010年版は、第85回日本医療機器学会大会で発表し、パブリックコメントを募集することになっています。これにより、ますます滅菌の重要性の認識が深く、また広くなることでしょう。

感染症患者の発生を医療機関は真剣に想定すべき

「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2005」では、過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌器による滅菌業務の日常のモニタリングと管理について、(1)機械的制御の監視・記録、(2)化学的インジケーター(CI)の使用、(3)生物学的インジケーター(BI)の使用が推奨されています。しかし実際は、残念なことに、十分な運用がされていない施設もあります。

医療機器学(2008年7月号「滅菌保証に関する実態調査報告書3」)掲載の調査によると、特にBIの使用頻度が低いという結果になっています(表1参照)。

表1 ステラッド®における3指標の使用頻度

表1 ステラッド®における3指標の使用頻度

これはおそらく、コストの問題とBIまでは必要がないであろうという誤った思い込みの影響だろうと考えられます。しかし、機械的制御の監視・記録とCI、そしてBIは、滅菌の保証という点では共通の目的を持ってはいますが、それぞれ担う役割が異なります(表2参照)。

表2 3指標の概要と役割の違いについて

表2 3指標の概要と役割の違いについて
(「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2005」から抜粋)

理屈の上では、実際に器材が滅菌できたかを知るには、その器材そのものを無菌試験するのがベストです。しかし現実的ではありませんので、必要なモニタリング方法が複数推奨されているのです。どれだけ滅菌器の制御や機能、CIの精度が上がったとしても、BIを省いて良いという理由にはなりません。確かに、BIは安価なものではありませんが、価格を理由に使用しないのは、今の時代に許されることでしょうか。滅菌不良によって、感染症患者が発生したときのことを考えれば、感染管理のためのコストは、医療機関が負担すべき経費であると認識した方がよいでしょう。

また、滅菌器メーカーの企業努力によって、BIの性能が上がり、相対的にコストが下がっていることは知っておくべきです。これは、CIについても同じことが言えます。

更なる徹底が求められる滅菌保証とトレーサビリティ

同ガイドラインでは、過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌器は、BIを「1日1回以上」使用するように推奨していますが、これを遂行している医療機関は、半数程度にとどまっています。

頻度が低いと言うことは、いざ滅菌不良が発生した場合に、大量の器材を回収しなくてはならないことを意味します。回収は、保証されていた滅菌の直後にまで遡って行う必要があるからです。遡る時間が長ければ長いほど、回収作業にかかるパワーもコストも膨大なものになります。さらには、手術計画に大きな影響を与えることにもなるため、患者さまにも多大な迷惑をかけることになります。

したがって、滅菌不良をできるだけ早く発見できる体制を整え、そして、万一、滅菌不良が発生した場合には、速やかに回収が行えるようにしなくてはなりません。

このためには、まず、適切な頻度でCI、BIを使用したうえで、院内での手順をマニュアル化しておくこと、そして器材のトレーサビリティを徹底しておくことが求められます。

いったん回収となると、関わる人も器材も相当な数になることが予想されます。手順は文書にし、誰もが参照できるようにしておくことが重要です。トレーサビリティに関しては、現場で効率よく運用できる体制を整えるために、日本医療機器学会として、勧告を出す必要性を感じています。また、ミスの少ないチェックシステムを実現するには、各医療機関が個別に取り組むのではなく、例えば、薬におけるトレーサビリティシステムに近い仕組みが確立されることが望ましいと言えます。そのためには、器材の一つひとつに全国共通のバーコードを持たせるなど、メーカーの協力も必要になるでしょう。

医療技術と器材の進歩がより適切な滅菌を求める

今後、さらに滅菌保証の必要性が高まっていくことは確かです。免疫不全の患者さまが増えていることに加え、医療の進歩により、器材が進化していることが理由です。進化した器材のなかには、複雑な構造をしているものも少なくありません。従来のような洗浄、滅菌方法では、不十分である可能性も出てきます。いままで以上に、滅菌のプロセス管理が問われるのです。「滅菌器に入れたのだから滅菌できただろう」ではなく「入れたけれど滅菌できていないかも知れない」と考える必要があります。事実、滅菌の不足でトラブルを引き起こすことはあっても、正しく保証された滅菌が患者さまの事故につながることはありません。

もちろん、滅菌前の洗浄についても、滅菌と同様に、保証という概念を持って取り組む必要があります。あとで滅菌をするからと、洗浄がおろそかになることは許されません。CIとBIそれぞれに期待されている効果が違うように、洗浄と滅菌にも異なった重要な役割があります。洗浄についても現在、日本医療機器学会内のワーキンググループが欧州で実施されている基準などを参考に、日本におけるガイドライン制定の必要性を含め、研究を進めています。

実は日本には、手術に用いる器材を洗浄、滅菌しなくてはならないと定めた法律はありません。だからと言って、しなくていいわけではないことは明白です。むしろ、することが当たり前であるから、明文化されていないのだと理解すべきでしょう。無菌状態の人体に触れる器材を正しく滅菌することは、法で義務づけられるようなことではなく、医療に携わる者に与えられた当然の責務です。そう考えるとますます日々の滅菌は、効果が保証されるものでないといけません。

毎日のルーチンワークにこそ継続的・安定的な運用が必要

 滅菌は毎日繰り返し行われる行為です。同じことを正しい手順で続けるのは、大変なことです。しかし、ルーチンワークこそ、手を抜いたり省いたりすることは許されません。アクシデントとは往々にして、踏むべきステップを踏まなかった時に発生するものです。滅菌とは、常に感染を引き起こさないレベルにあることが確認されている必要があります。しかし、滅菌できているかどうかは、私たちの肉眼では判りません。人間の目だけでは、保証はできないのです。近代外科学の祖と呼ばれるジョゼフ・リスターは言っています。「微生物を心の眼で見よう」と。だからこそ、ガイドラインに従って適切にインジケーターを利用し、保証された滅菌が継続的かつ安定的に行われるように滅菌器を運用することが重要です。

松田 和久先生の画像