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ASP感染管理のQ&A | ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 ASP事業部

医療従事者におけるHBVワクチンのブースター接種について

米国では一度十分な抗体価が得られれば、その後抗体価が低下しても曝露に際して効果的な免疫反応が得られると考えられており、腎不全を含む免疫不全症例以外は、経時的な抗体価測定は不要としております。
今まで、10年以上の研究は実施されておりますが、20年またそれ以上でも抗体価測定は不要となり、ブースター接種の必要はないのでしょうか?
国内においては追加免疫に対する考え方は必ずしも一致した標記にはなっておりません。医療従事者より追加接種の必要性を問われることがありますが、どのように説明したらよいのか、また当院において統一した対応としてマニュアルに出してよいものか悩んでいます。ご教示よろしくお願いいたします。

 

最初に、ご指摘の部分についてCDCガイドラインの内容を確認したいと思います。

HBVワクチン接種によって免疫が得られても、HBs抗体は最初の1年で急速に低下し、それ以降はゆっくりと減少します。健常人では、ワクチン接種者の90〜95%に抗体産生がみられますが、抗体産生は時間の経過とともに減弱し、8年以上経過すると約60%の人で抗体が検出されなくなります。しかし、ウイルスに対する抵抗性は保たれるため、再度ワクチンを接種する必要はありません1,2)。実際、4〜23年前にワクチンが接種されてHBs抗体を獲得したにも拘わらず、時間の経過によって10 mIU/mL未満まで低下してしまった人にワクチンをブースター接種すると僅か2〜4週間後に74〜100%の人で抗体が増加するとの報告もあります。このデータはワクチン接種者の多くが免疫記憶を維持しており、HBVの曝露によってHBs抗体を獲得することができることを示しています。すなわち、過去に免疫された人にHBs抗原が入ると、HBs抗体は迅速(<2週間)に増加(>100mIU/ml)するのです。HBVの潜伏期は1〜6ヶ月(平均3ヶ月)なので、潜伏期が終わる頃には体中にHBs抗体が満ちあふれているということになります。

「HBs抗体は一度獲得すると、年月の経過とともに消失しても追加接種は必要ない」という勧告は多くのエビデンスによって支えられています。医療従事者を何百人も対象とした研究や男性同性愛者やエスキモーを対象とした研究が長期間実施されたのですが、これらすべての研究の結果がこの勧告を支持しているのです3)。HBc抗体が検出された症例もいました。HBc抗体はHBVワクチンでは獲得されない抗体であり、この存在はHBV自体が体内に入り込み、免疫が反応したという根拠になります。すなわち、実際にはHBVが体内に入り込んだにもかかわらず、急性感染にもキャリアにもならないことが明らかとなったのです。

このような勧告は健常者について言えることですが、透析患者には当てはまりません。透析患者は免疫不全であり、HBV感染を受けやすいハイリスクな人々です。透析患者にHBVワクチンを接種した場合に抗体産生がみられるのは50〜60%に過ぎず、しかも抗体を急速に低下させます。そのため、透析患者では、抗体価が検出感度以下に低下した場合には追加接種をする必要があります4)

今回のご質問ですが、20年以上前のHBVワクチン接種であっても同様のことが言えるのかということでした。たしかに、20年を越えたエビデンスは十分ではないと思いますし、「10 mIU/mL未満まで低下してしまった人にワクチンをブースター接種すると僅か2〜4週間後に74〜100%の人で抗体が増加する」というようにブースターによって100%の人が抗体を再確保できることはないことも示されています。そのため、20年以上についてはエビデンス的な裏付けは乏しくなると思いますが、それでもCDCは健常人についてはブースターも必要ないし、毎年のHBs抗体検査すら必要ないといっております。

医療従事者へのワクチン接種は、HBVワクチンのみではありません。麻疹、風疹、ムンプス、水痘、インフルエンザ、そして、最近は破傷風ワクチンの必要性が指摘されております。こちらのワクチンの徹底がされていない状態で、20年を越えるエビデンスが不十分とのことで20年前にHBVワクチン接種された人を特に心配するのはマンパワー的および経済的に大変ではないでしょうか?感染対策やワクチン接種に順番をつけておいて、重要なところから充実させる必要があると思います。HBV感染は医療従事者の生命を脅かすので、とりあえず、すべての医療従事者にはHBVワクチンを接種します。そして、麻疹や風疹などのワクチンを次々に接種してゆき、破傷風まで対応します。これらすべてが完了した段階で、20年前まで遡ってHBVワクチンの接種をプログラムに組み込むのはよいかもしれません。しかし、職員全員の水痘や麻疹などの抗体価の測定が不十分であり、またそれらへのワクチン接種が未完成な段階で、もっと必要性の低い20年前のHBVワクチン接種者への対応を優先するのは感染対策の戦略上は適切ではないかもしれません。従って、現時点ではCDCガイドラインを参考にして、医療従事者は一度HBs抗体を獲得すればブースターは必要ないとして対応すればよいと思います。そして、麻疹などへの対応が完璧なものになった段階で、HBVの20年問題に対応すればよいのではないでしょうか?

参考文献
  1. CDC. Guideline for infection control in hospital personnel 1998
    http://www.cdc.gov/hicpac/pdf/InfectControl98.pdf
  2. U.S. Public Health Service. Guidelines for the management of occupational exposures to HBV, HCV, and HIV and Recommendations for postexposure prophylaxis
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5011.pdf
  3. Mahoney FJ, et al. Progress toward the elimination of hepatitis B virus transmission among health care workers in the United States. Arch Intern Med 157: 2601-2605, 1997
  4. CDC. Recommendations for preventing transmission of infections among chronic hemodialysis patients, 2001
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5005.pdf

この質問に回答いただいたのは・・・

矢野邦夫先生

浜松医療センター 副院長 兼 感染症科長

1981年名古屋大学医学部卒業、名古屋掖済会病院、名古屋第二赤十字病院、名古屋大学病院を経て米国フレッドハッチンソン癌研究所留学。帰国後、浜松医療センター。同院在籍中、ワシントン州立大学感染症科にてエイズ臨床短期留学、米国エイズトレーニングセンター臨床研修終了。2008年より同院副院長。医学博士、ICD、感染症専門医、血液専門医、内科認定医、藤田保健衛生大学客員教授、浜松医科大学臨床教授。

聖路加国際病院 医療安全管理室 インフェクション・コントロール・プラクティショナー 坂本史衣先生