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ASP感染管理のQ&A | ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 ASP事業部

結核患者の死亡時の対応

結核患者の死亡時の対応についてです。排菌している患者が死亡した場合です。呼吸が止まれば排菌はしていないと考えると思います。死後の処置時にはN95マスクを着用します。そのあとは家族や葬儀社の人はN95マスクなしでの対応でよいでしょうか?退院から火葬までの間です。体を動かしたときの排気があった場合を考えると、どうなのか?と思いました。

 

結核菌は空気感染する病原体なので(1)、患者の気道から排出される空気について考慮することになります。確かに、死亡することによって呼吸が止まれば、結核菌の排出はなくなり、感染する危険性もなくなります。もちろん、空気中に浮遊している結核菌を含んだ飛沫核が除去されるまでは、その病室に入室する人はN95マスクが必要となります。飛沫核が除去されればマスクの必要はありません。

しかし、呼吸していなくても、搬送のためにご遺体をストレッチャーに移動させたり、安置するために布団に移すときなどで、体が曲がったりすれば肺に残っている空気が吐気として噴出してくる可能性があります。特に、葬儀社にてエンバーミング(「死体防腐処理」や「遺体衛生保全」などと邦訳されている) をおこなうときには肺が圧迫されたりするので、エンバーマー(エンバーミングをするスタッフ)はN95マスクを装着して十分な結核対策を実施しなくてはなりません(1)。エンバーミングは日本ではあまり行われていませんが、米国ではほとんどのご遺体に実施されています。

ここでご質問に対する回答をしたいと思います。エンバーミングを除いて、死亡後から火葬まで、家族や葬儀社の人がN95マスクを装着する必要はないと考えてよいでしょう。その理由は3つあります。1つ目は、喀痰中の結核菌の濃度は治療開始2日で1/10となり、14〜21日で1/100となるということです(2)。すなわち、「結核と診断されて治療されている結核患者」は「結核の診断がされていない未治療の結核患者」よりも感染性が著しく少ないのです。結核患者が死亡したときには、既に結核の治療が実施されていることが多いので、感染性はかなり失われているのです。2つ目は結核菌の感染には長時間の曝露が必要であるということです。CDCは結核における「濃厚接触者」とは家庭などの閉鎖環境にて長期間(日や週単位であって、分や時間単位ではない)、同じ空間を共有している人々のことであるとしています(2)。死亡後から火葬までの間に長期間に渡って閉鎖空間にて「気道から空気が吐出するような行為がなされ続けているご遺体」に曝露し続けることはないといってよいでしょう。3つ目は、N95マスクにはフィットテストやシールチェックが必要であるということです(1)。これらはN95マスクが適切に装着されているかを確認するために必須のことですが、そのようなことが一般の人々が実施できることはありません。

ご遺体は丁寧に取り扱われています。ストレッチャーに移動させたり、安置するために布団に移すときに、肺に残っている空気が噴出してくるほど、大きく体を折り曲げることはありません。エンバーミングを除いて、N95マスクは必要ないのです。

参考文献
  1. CDC. Guidelines for preventing the transmission of Mycobacterium tuberculosis in health-care settings, 2005
    http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/rr/rr5417.pdf
  2. CDC. Controlling tuberculosis in the United States, 2005
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5412.pdf

この質問に回答いただいたのは・・・

矢野邦夫先生

浜松医療センター 副院長 兼 感染症科長

1981年名古屋大学医学部卒業、名古屋掖済会病院、名古屋第二赤十字病院、名古屋大学病院を経て米国フレッドハッチンソン癌研究所留学。帰国後、浜松医療センター。同院在籍中、ワシントン州立大学感染症科にてエイズ臨床短期留学、米国エイズトレーニングセンター臨床研修終了。2008年より同院副院長。医学博士、ICD、感染症専門医、血液専門医、内科認定医、藤田保健衛生大学客員教授、浜松医科大学臨床教授。

聖路加国際病院 医療安全管理室 インフェクション・コントロール・プラクティショナー 坂本史衣先生